History Taking

問診

ask1問診は、患者の現在の状態を把握することが可能になり、障害の程度、予後の予測、必要な治療を挙げることが可能になる。更に過去の病歴などにより、関連性や、傷害部反復的な損傷、障害の原因などが明らかになる。また、後の理学検査においてどのような検査に注意を払うべきか、あるは他の医療機関において特別な検査が必要であるのか判断することも可能にある。問診の項目は多いが反復して経験を積むことにより、患者の問題をすばやく、深く理解することも可能になる。
問診
主訴
発症様式
主訴の既往歴
症状(痛み)の部位
症状(痛み)の特徴
症状(痛み)の程度
症状(痛み)の放散
症状(痛み)の頻度
症状(痛み)の持続時間
症状(痛み)の経過
症状(痛み)を悪化させる因子
症状(痛み)を軽減させる因子
随伴症状
既往歴
家族歴
社会歴
薬等
婦人科

主訴

初めに主訴である。これは患者が訴える症状で、患者自身の言葉と我々が使用する医学的な用語を使うほうがよいであろう。主訴が複数ある場合、最も重篤なものを選択するべきである。症状が複数の部位に存在する場合、初めに治療を加える部位を特定することにもなる。

発症様式

次に発症様式である。これは症状がどのように起こったのかということである。突然の発症の場合、何をしているときに発症したのか質問して、その時の動作で収縮、伸長される筋、伸長される靭帯、負荷が加わる関節などの構造を考慮する。この場合、動きに関するバイオメカニクスの知識が必要になる。可能な限り細部までの関節の動き、筋肉の作用などを立体的に、イメージすることが望ましい。また、可能であるならば(症状の悪化が起こらない場合)、患者に動作を再現させることが望ましい。
患者自身がきっかけとなるような動作や姿勢など思い当たらない場合、発症の前にしていたことについて尋ねる。これは数日前の可能性もあるので、特に患部に負荷のかかるような動作を行っていないか確認するべきである。このようなこともない場合、内臓からの関連痛、骨転移、腫瘍、内科的な疾患に起因する各種関節炎などを考慮するべきである。このような痛みの場合、筋骨格系の問題では痛みが悪化、あるいは軽減すると予測される動作との関連が著しく低くなる。
発症がゆっくりと起こっている場合、筋骨格系の問題であれば、姿勢、日常動作、仕事などによる負荷の蓄積である可能性があるため、日常動作はどのような動作が多いのか、仕事では動作をしているのか、姿勢は立っていることが多いのか、立っているときは、どのようなところに、どのような靴で立っているのか、座っている場合、どのような椅子に座り何をしているのか、例えば、高さの調節ができないような椅子で、机に向ってパソコンの打ち込みをしているのか、キーボードが高い位置にある場合、キーボードの高さに合わせるため両肩の挙上筋、僧帽筋や肩甲挙筋などの過緊張が予測できる。モニターが高い場合、頸椎の過伸展、過前弯が予測できる。マウスの使用頻度が高い場合や数字を多く入力する場合、マウスやテンキーは右側にあるケースがほとんどであるため、右手の酷使などに関連することが予測される。さらに、体幹や頚部の左回旋、右中下部頸椎の前方変位などが起こる可能性もある。座り方では坐骨で座ることなく、仙骨の部分で座る場合、一側に片寄るケースが多くみられる。例えば、左側に片寄る場合、PI-L、左PI腸骨、下部腰椎のPRI変位などが起こることもある。長時間立位を保つ場合、一側に体重が偏るケースがある。体重支持側の下肢の筋は過緊張を起こす結果になり、足部のアーチの扁平化の原因にもなる。アーチの扁平化により前脛骨筋の過緊張が起こることもある。これは、上部の構造、股関節内旋、骨盤AS変位、腰椎の同側への回旋、胸郭、頸部への回旋の歪みにつながる可能性もある。歩行では、重い荷物を一方の肩や手で持って歩く場合、対側に重心が変位し、股関節可動域減少、仙腸関節フィクセーション、あるいは対側の可動性亢進が起こることも考えられる。動作では、上肢を酷使する場合、上肢は勿論、頸部への影響が疑われる。下肢の酷使では腰部への影響を予測するべきである。
発症がゆっくり起こる場合、50歳以降では退行性変性の存在も考えるべきである。退行性変性では、痛みの悪化や軽減の問診にもつながるが、朝の痛み、軽度の動きによる痛みの減少、過剰な動きによる痛みの出現などのパターンが見られる。このような場合、局所へのスラストは通常禁忌である。
他の医療機関による治療は患者にとって治療と信じられているため、患者自身は症状との関連を認識していないケースがある。このため、電気、温冷、マッサージ、牽引、外科処置、薬剤、サプリメント、漢方薬などによる影響を考慮すべきである。例えば、習慣的に薬剤服用がある場合、肝機能障害がおこるケースがあり、背部痛、腰部痛、姿勢異常の原因となるケースがあり、胃障害では姿勢障害、頭蓋障害、腎臓障害では大腰筋異常、冷気不耐性、大腸機能障害では腰部痛、頭痛、肩こりなど起こす可能性がある。特に、筋骨格系の障害による痛みに対し、痛み止めを服用している場合、痛み止めが作用している状態では、本来痛みを感じる動作、障害部を悪化させる動作が可能になるため、傷害部位の悪化を誘発することがある。

主訴の既往歴

以前に主訴と同じ部位に同じような痛みが起こったことがないか確認する。同じような痛みを経験している場合、最初に痛みを感じた時の発症様式について詳しく問診し、原因となるものを特定するべきである。また、過去の発症時にどのような治療を受けているのかも問うべきである。またその治療による効果を聞くことで、治療プランの参考になるケースもある。繰り返し、発症している場合、症状の緩解と再燃を繰り返す場合、緩解時にも患部は機能的に回復していない可能性もある。更に患部に器質的な疾患や奇形などが存在する可能性もある。忘れてはならないのは全身性の問題による症状の可能性もあるため患者の内科的な疾患や不調部位の把握も必要になる。

症状の部位

痛みの部位を患者に手で示すように指示し、先ずは、その部位の筋骨格系、内臓など解剖学的な構造をイメージする。次に、支配神経、栄養血管、他の部位からの放散、関連痛などの可能性を考える。症状がある部位の問診ではその範囲も問うべきである。広い範囲、あるいは狭い範囲にあるのか問う。この範囲は一般的に広いほどより重篤であると考えられる。治療により範囲が狭まれば改善していると捉えられることもできる。しかし、これに当てはまらないケースもあるため他の所見を考慮したうえで判断することが望ましい。

痛みの特徴

症状にも、鋭い痛み、鈍い痛み、拍動性の痛み、深部の痛み、浅部の痛み、放散痛、痛みの移動の有無、広い部分、狭い部分、痺れ、脱力感、コリ、重いなど、症状の表現には患者による個人差があるため、患者の言葉を記録するべきである。鋭い痛みの場合、急性、組織の刺激、神経痛、筋痙攣など、鈍い痛み、重い感じは、慢性、機能異常、組織の変性、筋、硬縮、可動性亢進、循環不全など、拍動性の痛みでは、炎症、循環異常、深部の痛みでは、深部組織、骨の疾病、内臓からの関連痛など、浅部の痛みでは浅部組織、神経障害、放散痛では、筋の障害、神経障害、炎症部への刺激など、痛みの移動では、頻繁に痛みが移動する場合、移動する痛みの部位の障害ではないなど、広い部分では、重篤な状態で、血管性、循環障害、筋などの障害、狭い部分では、軽度あるいは回復期であると考えられる。痺れ、ピリピリ、チクチク、ジンジンなどは神経障害、脱力感では神経機能低下や痛みによる反応などの可能性がある。それぞれの症状の特徴は、障害部の情報の1つとしてとらえることができる。

症状(痛み)の程度

症状(痛み)の表現には主観的な要素が影響するため、症状の変化を把握し易くするためにも、ペインスケールを使用することが望ましい。ペインスケールは0から10までの数字で表され、0がまったく痛みを感じない状態、10は最悪の痛み、耐え難い痛みと設定し、現在の症状の程度を数字で表させる。

症状(痛み)の頻度

持続的な症状の場合、継続的な痛みでもその程度は一定のものか、その程度に変化があるのか質問し、持続的に痛みがある場合、損傷の可能性と炎症の存在を疑う。
断続的な痛みの場合、痛みの持続時間、発症、時間の傾向を理解する。断続的な症状が見られる場合、間欠性の痛み(炎症の後期)、あるいは動きや姿勢などによる痛みのメカニクスを考える。特定の時間帯に症状があらわれる場合、時間の経過に伴う行動を把握し、その原因となり得る構造的や化学的な因子を考慮する。

症状(痛み)を悪化させる因子

特に筋骨格系に対する治療を念頭に置いて問診を行う場合、症状を軽減させる因子と共に悪化させる因子は、問題の把握と治療法決定の大きなヒントになる。例えば、脊柱の動きでは、屈曲で悪化する場合、伸筋緊張、椎間関節、椎間板などが関与すると考えられ、伸展で悪化する場合、屈筋緊張、内臓障害、椎間関節、回旋では、屈筋、伸筋緊張、大腰筋、腹筋、大胸筋、胸鎖乳突筋、側屈では、対側の側屈筋緊張、椎間関節、腹筋などの関与が考えられる。
特定の動作、側臥位、仰臥位、腹臥位、起き上がる、立ち上がる、物を拾う、歩くなどで症状が悪化する場合、その動作で起こる変化を把握することで障害部位の予測が可能になる。座位から立位での変化は、腰仙部の伸展、胸腰部、上部胸椎の伸展、股関節の伸展、膝関節の伸展、足関節の背屈、仙骨底前方うなずき運動、大腰筋の抑制、腹筋(上部)の抑制、ハムストリング筋の抑制、腓腹筋の抑制、大腿四頭筋の促進、大殿筋の促進、起立筋の促進、腹筋(下部)の促進が必要になる。姿勢では、例えば立位で症状が悪化する場合、通常下肢の問題を考えるべきである。また、靴(ハイヒールなど)なども症状の悪化に関与する場合がある。一側の下肢に体重負荷が加わる場合、一側の下肢の筋緊張増加、内転筋群をはじめとする股関節周囲の筋の過緊張、アーチの減少、外反母趾、下腿三頭筋の緊張が起こる。座位では、座り方が適切ではない場合、前述したように、坐骨結節で座ることなく仙骨の一側に体重をかけて座る場合、仙腸関節、腰仙部に負荷が加わることになる。背臥位で症状が悪化する場合、腰椎過前弯、腰仙角増加による障害、起立筋緊張、後弯増加などが考えられる。腹臥位では、股関節伸展障害、大腰筋、腸骨筋過緊張など、側臥位では腰部側屈が起こるため側屈により悪化する椎間関節症、椎間板障害、仙腸関節浮腫などが関与する可能性がある。特定の姿勢により症状の悪化が起こる場合、その姿勢の分析が必要になる。長時間同じ姿勢を保つことで起こる症状の悪化は、靭帯の伸長、筋緊張なによる症状を誘発することになる。
温度変化による症状の悪化は、内臓の異常(甲状腺異常、自律神経異常、更年期障害、副腎機能異常)を示すことがある。温度変化は副腎機能に負荷を加えるため副腎の関与を考慮する。甲状腺機能低下症は暑さ、寒さへの耐性が低くなる。自律神経異常では体温調節や血流調整の不調が起こる。食事などでは、食後に症状が悪化する場合、消化器疾患からの関連痛が考えられる。食前に症状が起こる場合、低血糖症や十二指腸の不調、食事中では、咀嚼運動障害、嚥下障害、胃などの障害が起こる。
特定の時間帯に症状の悪化が起こる場合、その時間と、その前に行う行動を考慮する。気象状況の変化がある場合、関節炎、神経痛などが疑われる。
生理周期(生殖器、生殖腺との関連)による症状の悪化、女性では(腰部、下肢の症状を訴える患者)必ず月経時と症状の関連、あるいは月経時の症状を把握する。生理困難を持つ患者には、副腎へのストレスの存在、食物摂取内容を問診するべきである。
月経開始時からの月経による症状の変化、変化時の疾患、外傷などの関連を見出す。変化が存在するということは何らかの異常が起こっているはずである。
風呂で悪化する場合、炎症が考えられ、エアコンなどの冷気で悪化する場合、筋痙攣が関与する可能性がある。

症状(痛み)を軽減する因子

基本的に痛みを軽減する状態は、患部への負荷が軽減されることを意味している。障害部の悪化を防ぐためには、患者を症状が軽減する状態に置くことであり、治療後の患者の指導内容の参考となる。
横臥位での症状緩和は基本的に、体重負荷時に起こる筋骨格系の問題が存在することを示す。温熱で軽減が起こる場合、筋硬縮や退行性変性による関節症(慢性期)などがある。冷却することで症状が軽減する場合、急性期の炎症が考えられ、動きで軽減する場合、筋硬縮、特に軽度の動きで軽減する場合、退行性変性による関節症、痛み止めが効果的に症状を緩和する場合では関節炎が疑われる。歩行時の症状が座ることにより症状が軽減する場合は、神経性の跛行が疑われる。血管性の跛行の場合、必ず座ることが必要ではない。

痛みの経過

発症以来の痛みの程度の変化を問診する。これは今後の状態の判断材料にもなる。症状が改善してきている場合、一般的に治療効果は良好と予測される。逆に、症状が悪化している場合、一般的に治療効果は低いと考えられる。発症以来の痛みの部位の変化がある場合、痛みの部位は広範囲になっているのか?縮小しているのか?確認する。痛みの部位が変化している場合、初めの症状に対する代償作用による二次的に障害がおこっている可能性がある。症状が複数の部位に増加している場合、はじめの痛みの部位からその因果関係を予測する。

随伴症状

主訴と伴に発症する症状、合併症について質問する。これはが主訴と合併症との関連を推測することで、根本的な原因を見出することも可能になる。頚部の痛みと上肢の痺れや腰痛と下痢など大腸の状態、肩こりに伴う頭痛などがある。これらの関係を理解することで、随伴症状を抑えることで、根本的な部位の治療により、随伴症状を直接治療することなく改善させることが可能になることもある。
続発症は、症状出現後、他の症状が発症した状態、多くの場合その関連として、代償的なものや2次的なものが考えられるため、主訴との因果関係を考える。
膝関節痛が存在する状態で、日常生活を送る場合、対側の膝関節への負荷が増すことで、対側の膝関節障害(腰痛、股関節痛、足部痛)を起こす可能性がる。

既往歴

患者の既往歴を熟知することは、複雑な問題の解決、各部位の関連を理解するために不可欠である。これは、通常の医療機関では完治しているとみなす状態でも、我々が重要視するような機能的な障害が存在するケースは少なくない。例えば、足関節捻挫が感知しているとされる状態においても、繰り返し同じ部位の捻挫を起こすということを耳にすることも多いと思うが、このような状態では、足関節の安定性は完全ではない可能がある。例えば靭帯が弛緩した状態や筋の収縮力が弱い状態、同時に起こした遠位脛腓関節が離開した状態である可能性がある。腹部手術後では、内科的な疾患は回復したとみなされるケースもあるが、筋骨格系の問題として、腹筋にメスが入れられているため、腹筋の弱化により、腰痛が発生るケースもある。四十肩など滑液包炎により長期間肩の痛みに悩まされていた患者が、痛みが消えたことで肩関節が完治しているととらえている状態で実際に可動域制限(例えば、屈曲)が存在し、これを腰椎の伸展運動により代償を起こすことで日常生活に支障がない程度の場合、患者が腰椎過伸展による症状の悪化を起こす可能性があるこのように、我々の検査では、既往歴が存在する部位は、機能障害が発見されやすく、主訴との関連を見出す可能性の高い所でもあるため、既往歴の問診と検査は必要不可欠である。病歴、特に遺伝的な素因を持つもの、RA、痛風、糖尿病などは関節炎や神経炎など原因となるため、家族歴なども参考にしてその存在を確認するべきである。外科処置は、必ず瘢痕組織を残すため、瘢痕組織による筋骨格系への影響を考慮する。外傷(骨折、捻挫、筋断裂)、例え数十年前のものであっても、けがによる機能障害からの直接的、間接的に主訴が発症する可能性がある。治癒の状態を問う。温度低下より何らかの異常が感じられたり、無理をかけると不快感が現れるなどを問診することで、治癒の状態を予測することができる。外科処置や外傷などの経歴を持ちその影響で症状が現れている後遺症についても質問する。外科処置や外傷の詳細を知ることで障害部の特定を試みる。障害部に対する代償作用を予測する。外科的な処置は筋骨性のものに限らず内科的なもの含む。既往歴に癌が存在する場合、完治していると告げられていても、転移再発の可能性を捨てるべきではない。癌転移の80%は,乳癌,前立腺癌,肺癌,腎臓癌からであり、女性では70%が乳癌から,残りの30%は甲状腺癌,腎臓癌,子宮癌からの転移で、男性では前立腺癌から60%,肺癌25%である。
過去の疾病、外傷の症状の消失は必ずしも機能障害の存在を否定するものではない。逆に、必ず何らかの形で機能障害を残していると考えるべきである。不完全な組織の回復、治癒過程における代償作用、精神的、神経学的な問題を残す場合がある。

家族歴

家族の中で遺伝的な疾患を持つ者や家族内感染症の可能性があるか確認する。
悪性腫瘍、高血圧、アレルギー、内分泌疾患、薬物過敏症、結石症、リウマチ、糖尿病、脳血管障害、膠原病、痛風などは遺伝的な素因があるため、その可能性を考慮するべきであろう。遺伝的な素因がないものであっても、内臓障害、家族の死因(病名)を問うことは有意義である。食生活や生活環境を共にしていることなど、同様の臓器に疾病までは至らないものの、負担がかかっている可能性もある。

社会歴

社会歴では、日常の活動、スポーツ、仕事内容、日常の運動量、嗜好品(飲酒量、喫煙量)などについて問診する。またストレスの存在を確認することも有意義である。

婦人科

婦人科に関する問診では、女性患者の治療、更年期の不定愁訴などの治療に有効な情報が得あれることがあるため、非常に重要である。妊娠、出産の有無、出産は出産回数、普通分娩か帝王切開など、生理の周期、生理痛、不正出血の有無、を問診するべきである。複数の分娩を経験しているものは、仙腸関節の可動性亢進状態であることが多い。帝王切開の経験がある場合、腹筋窩部の脆弱化が存在する可能性は高い。子宮摘出や卵巣の疾患は、腰部骨盤部の症状の原因となるケースがある。